シリコンバレーでアクセラレータープログラム【Vol.1】

2020.11.10

シリコンバレードリームの尻尾をつかむ

シリコンバレーでスタートアップ!?

50歳になる年に、何か記念になるような自分のためのイベントをしたいと思いました。

それで、いろいろと考えて、やっぱ旅がいいなと思って、さあ、どこを旅しようか。南米パタゴニアか、ニュージーランドを縦断するか。。。そんなことを考えながら、2010年にひと月近く、約800キロを歩いた北スペインの巡礼の道「カミーノ・デ・サンティアゴ」をいつか再び歩きたいと思っていたので、カミさんに、カミーノを歩こうと思うんだけどと言ったんです。「そしたら、もう歩いたじゃない、どうせ歩くなら、もっと先でいいんじゃない」って言われて、なんだかそうだなと思い、自分でもそんなにあっさり納得するくらいだから、これは本気じゃないなと思って、また考え直しました。

そんな時、ひとつのメールが目にとまりました。

アクセラレータープログラムシリコンバレースタートアップのアクセラレータープログラム開催。

そのメールは、過去に一度会って、名刺交換したことがあった、日本のVC=ベンチャーキャピタリストの方からの一斉配信の案内メールでした。普段ならたぶん流してしまいそうなメールだったのですが、なんだか興味を持って、内容を読んでみると、スタートアップ企業を急速に成長させるためのノウハウを教えてくれるだけではなくて、成功するためのマインドセットをプログラムする。そんな内容でした。アクセラレーターとは、加速させるもの、加速装置のような意味ですが、スタートアップ=起業したての会社を一気に加速させ、大きくしていくためのプログラムと言うことでした。

日本人向けのプログラムですが、すべて英語の研修で、Evernote創業者のフィル・リービン氏を始め、シリコンバレーで活躍する起業家最先端のITスペシャリスト経営戦略やスタートアップ、リーダーシップなどなどの専門家現地のベンチャーキャピタリストやエンジェルなどなど。。。正直、最初はほとんど名前も知らないような人たちだったけれど(苦笑)、ただ、その業界では、相当知られた人たちが、少人数制のこのプログラムで直接指導してくれるということで、価格は10,000ドル。日本円で、当時為替が円高だったので 120万円くらい(宿泊費込み)。さらに飛行機や前後の宿泊、食事などもいろいろと入れると(こちらは自分が何を選ぶかですが)約30万円くらいとなれば、150万円くらいになるわけです。

でも、なぜかこのプログラムに興味を引かれ、ふと自分の中で声がしました。自分が一番抵抗を感じるもの、不安や怖れを感じるものに挑戦してみたいと・・・

すべて英語のプログラム・・・自分がもし参加したとして、僕の英語力で内容を理解できるのだろうか?もし、理解できないとしたら、この120万円以上を無駄にすることになる。また、プログラムでは、最後にベンチャーキャピタリストに、自分のスタートアップのアイデアをプレゼンする。。。しかも英語だよ。。。英語。。。英語の講座を聴くだけなら、まあ、まあなんとかごまかして切り抜けられても、英語でプレゼンなんてできるのか?さらに、そもそもスタートアップのネタはどうする。。。そんなことを考えていたら、自分には関係ないかと思ったんです。

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず

当時、僕はシリコンバレーやスタートアップビジネスなどの言葉に抵抗を感じていて、急速に会社を成長させるということに違和感すらありました。そんな自分を見つめたときに、なぜ、そんな風に思うのだろうか?なぜ、抵抗を持っているんだろうと。
そこには、自分がそうしたいけれどできない。どこか諦めていて、そうできない自分を見たくないので、近づきたくない、そんな思いがあるのではないかと思ったのです。であれば、あえてそこに行くことで、何かその答えを見つけることができると感じた僕は、カミさんの許可を得て、そのプログラムに申し込んでしまいました。
しかし、そのプログラムは面接があって、誰でも参加できるというわけではありませんでした。

まず、当時、Skypeによるシリコンバレーでこのプログラムを主催している会社の代表Ariさんとの面談があって、英語でなぜ参加したいのか。参加してどんなゴールを達成したいのかなど答えなければいけなかったのと、どういうスタートアップのアイデアがあって、実現しようとしているかを話さなければいけなかったのです。あっ、面接は、ただ、面接があると言うことで、どういう内容かは、わかっていませんでした。。。

さて、そこで、緊張の中、面談したのは、米シリコンバレーで創業のWomen’s Startup Lab 代表取締役、Ari Horieさん(堀江愛利さんは、元日本人。いまはアメリカ国籍)で、CNN「10 Visionary Women(10人のビジョナリーウーマン)」、マリ・クレール誌「20 Women Who Are Changing the Ratio(男女比を変える20人の女性)」に選出され方です。
※首相官邸のWebサイトに登場しているAri Horieさんの記事/https://www.kantei.go.jp/jp/headline/contributing_worldwide/horie.html

面談では、彼女は一切日本語を話しません。と言うか、後日わかったのですが、18歳で単身アメリカに来て、完全に英語ネイティブになり、日本語は得意ではなくなっていました。。。笑 それで、結局、なんとか面談を終わり、最後に言われたのが、和田さんの英語力では少し厳しいかもしれないけれど、もし、和田さんが頑張ってみたいというなら、私もフォローできるので、参加してみますか?和田さんの情熱やアイデアは素晴らしいので。。。と・・・まあ、このプログラムもそこそこの値段なので、僕のようなレベルでもお客さん。参加してもらえたら、それなりの売上げになるので、できたら参加してもらいたいという本音も見え隠れしましたが、ぜひ、ということで参加することになりました。

現地、シリコンバレーに行く前に、時差ボケを解消しておきたくて、数日前にサンフランシスコに入り、久々のサンフランシスコを味わいながら、現地で仕事もしながらいよいよ、プログラムに臨んだわけです。

 

ハッカーハウスの住人

プログラムそのもののお話の前に、スタートアップしようとしている人たちが、シリコンバレーでどんな暮らしをしているのかを体験する意味で、宿泊は俗に「ハッカーハウス」と呼ばれるシェアハウスが利用されました。このシェアハウス、実は日本人の竹内夫婦&ご家族が営むハッカーハウスで、とても快適で楽しい滞在となりました。当時(現在移転)、シリコンバレーの北の端、フォスターシティにあって、湖の畔にある素晴らしい環境の場所で、竹内夫妻には本当にお世話になりました。いくつも部屋があるんですが、一部屋に2段ベッドが2つ、つまり、4人部屋。。。まあ、郷に入っては郷に従え。

カミーノの旅も、ずっとアルベルゲという宿舎を利用し、毎日ほとんど2段ベッドだったので、あらためて、起業前のお金のない若者たち、いや若者に限らないのですが、高額な家賃のシリコンバレーでいかに経費を節減して暮らすか。その支援をしているのがこうしたハッカーハウスと呼ばれるシェアハウスなのでした。
このシェアハウスは、日本人の家族が運営していましたが、奥さんが美人の料理の先生で、朝晩は本当に素晴らしい料理が提供されて、環境としては最高でした。笑 一般的にハッカーハウスは、こうしたサービスはないので、各自自炊です。

アクセラレータープログラムに参加する皆さんは、結局7人で、女性2人、男性5人という少人数でした。若者ばかりが参加する中に、中年の僕が参加するのだろうと思っていたら、僕が最年長ではあったものの皆さんほぼ40代で、三菱UFJ銀行やテイジンの関連会社で日本のスタートアップ向けの投資部門の責任者の方やご自身が起業している最中の方、起業した会社を売却してEXITした方などなど。。。皆さんパワーがあって、とても刺激的でした。そして、いまも、お友達としてお付き合いが続いていて、結果的に、ここから三菱UFJ銀行のUさんは、その後銀行の子会社として、銀行のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるIT会社を設立し、創業経営者で活躍中。もう一人の女性Aさんは特許を取得して、セキュリティ関連の会社を創業し、現在はタイガーの役員も兼任。また、もうひと方は、もともと予定していたインドネシアはジャカルタのスタートアップを支援する会社の代表としてジャカルタで活躍中など、皆さん、大活躍されています。

こういう比較的高額のプログラムに参加する魅力は、それだけ意識の高い方、同じような温度感の方が参加されているということです。同じ釜の飯を食った仲間、戦友のような。

プログラム自体は2週間だったのですが、ハッカーハウスでは、帰ったらおいしい食事も待っているし、何しろみんなと仲良くなるので、ハッカーハウスの現地で起業準備中の若い住人たち多国籍。。。も交えて、毎晩飲み会でした。。。笑 ホールフーズでパックワインとつまみを買ってきて・・・住人で日本語を話すインド人の若者(男性)がいて、日本語は漫画やアニメで覚えたそう。

 

アクセラレータープログラムとは?

さて、プログラムの中身ですが、これは説明するとここでは大変なのですが、サクッとまとめると

1.起業家としてのマインドセット
2.スタートアップのスケール化とシリコンバレーのエコシステム
3.経営戦略
4.リーンスタートアップとイノベーション
5.ピッチ→プレゼンテーション
6.現場見学、シリコンバレーのネットワーキングパーティーなど

という感じで、後は、いろいろな刺激を受ける中での体験や何人もの成功者と会って、そのエネルギーに触れること、シリコンバレーに身を置いて、シリコンバレーの風を感じることが主な内容です。

僕としては、何が一番いい体験だったかというと、なかなか体験できない、特にGoogleの組織図にも乗っていないという秘密のGoogle組織GoogleXの内部見学や←なんとそこで、あの人物に会った!!

実際のシリコンバレーでの成功者たちに会って、お話を聞けたこと、そして、当たって砕けろの精神で、英語のプレゼンに臨んだこと。。。苦笑 こうした体験ひとつ一つが、骨身にしみたことでしょうか・・・

1の起業家としてのマインドセットについては、小さな起業を成功させる鍵でも書きましたが、スタートアップ企業は、その時点では小さな会社なのですが、いわゆる小さな会社と起業家によるスタートアップの違いをよく理解できました。まあ、少し考えれば当たり前のことなんですが、やはり、シリコンバレーで起業すると言うことは、世界を見ていると言うことです。そして、これはいろいろと意見をされる方もいるかもですが、基本的に、日本はマーケットとしてほぼ見られていないということです。

シリコンバレー発世界のマーケットを考えるとき、日本の市場はとても小さく、日本向けに考えると追うことはほぼないわけです。アメリカだけで3億人の人口なので、アプリ関連なら、英語でアメリカの市場を考えれば、そのまま世界のマーケットに出ることができます。
日本語環境で考えたアプリでは、英語環境もしくは、英語の文化圏でのUI/UXなどを考えてみても、文化が異なるので、世界展開を考えるなら、最初から英語環境で考えていく必要があり、そういう意味でも、世界に出るなら最初からシリコンバレーで起業する方がいいと言うことになります。そこから、日本の市場も考えればいい。
ただ、言うまでもなく、中国の深浅やインドのバンガロール、マレーシアのクアラルンプール、シンガポールを始め、アジアのスタートアップも活発で、非常に進んでいます。
また、イスラエルのテルアビブもイスラエルの高度な軍事技術民間に転用される仕組みがあったりして、こちらも世界最先端のスタートアップがどんどん生まれる環境があります。こうした環境を見ると、日本のスタートアップは残念ながら、かなり遅れを取っているのが現状です。
この大きな問題の一つは、国の政策ということもあるでしょうが、やはり、リスクを恐れない文化や環境が十分ではないということです。

 

エコシステム

シリコンバレーにはスタートアップがしやすい「エコシステム」が存在し、エコシステムとは生態系の意味ですが、いろいろな起業や団体がつながって、それぞれの強みを活かしながら、互いに利益を得られる共存共栄の仕組みがあると言うことです。
その中でも特に、投資家の存在や仕組みは大きく、ここが日本と大きく異なるところかもしれません。日本の場合は、起業する時に、資金がない場合は、基本的には銀行にお金を借りるというカタチを取りますが、これは借金なので、金利をつけて返さなくてはいけません。

シリコンバレーは、投資家の仕組みがあり、投資家にピッチ(プレゼン)を行い、彼らの投資を受けられたら、彼らはそのスタートアップの株を割り受ける、以上なのです。つまり、資金を投資してもらうと言うことは、お金は返す必要がないのです。その代わり、ビジネスをスケール化(事業拡大→基本的に急成長)させて、IPO=株式効果の時に大きな資産を得ることになります。
そのために、投資家にピッチを行い、投資をお願いするのですが、当然、投資家は、成長、特に急成長が見込まれるスタートアップにしか投資はしません。投資家は可能性のあるプロジェクト、スタートアップにはお金を出したいのです。当たり前ですが。。。そして、魅力あるスタートアップには、お金だけでなく、人材や必要な環境など、様々なものを準備してくれます。
スケールするために、コンサルティングし、必要な人材を準備し←基本的に、シリコンバレーには優秀な人材が世界中から集まっているので、VCが本当にその会社を成長させようと思うなら、そんな人材を準備します。しかし、ここは落とし穴があって、創業者が経営能力がなければ、社長職を解かれる可能性もあります。VCが大株主になると言うことは、そうしたリスクもあり、自分が会社を追われることもあるのです。

シリコンバレーでは、スケールするスタートアップに適材を見つけてくる会社もあれば、スタートアップ企業専門の人材紹介会社や情報誌もいくつもあって、そんな情報誌には、まだ創業したばかりで、場合によっては一人とか数人の会社が人材を求めていて、そこから運が良ければ、数年後に爆発的な成功を収め、IPOで億万長者になるケースもあるわけです。
健康状態を測定するウェラブルデバイスで、Apple Watchのような高機能ではなく、身体の状態を測定することに特化して低コストで提供したFitbitの役員の方に話を聞きましたが、Fitbitが上場する前から働いていた若い受付の女性や経営部のおばちゃん(おばちゃんと女性は同じですが。。。笑)の写真を見せてもらって、彼らも会社の株をストックオプションで持っていて、IPOしたときに、なんと、受付の女性はその株が1億円くらいになり、経理部のおばちゃんは、3億だったか4億円になったそうで、すぐに家を買ったと言っていました。
IPOのお祝いパーティーの写真に写っていた多くの人が一夜にして億万長者になったわけです。これがシリコンバレードリームです。
こういうお話がたくさんあるので、シリコンバレーはまさにゴールドラッシュ時代に、人々が砂金を求めて集まったように、世界中から優秀な人材が集まっていたわけです。当時、いまから5年前なので、ある意味でシリコンバレーバブル真っ盛り、IPO長者がみんな家を買うので、地価も家の価格も、家賃も上がって、パロアルトあたりでそんな大きな家でもない物件が、3億とかしていました。日本の地方だと3千万~5千万円くらいの中古物件でしょうか。
シリコンバレーバブルのおかげで、みんな北へ北へと比較的安い物件を求めて移動していくので、結果サンフランシスコも生活コストが急上昇し、もともと住んでいた方に聞きましたが、その後、ポートランドへ移住したそうです。しかし、そのポートランドもそうやってみんながやってくるので、不動産価格も上昇し、もともとポートランドは人気だったのですが、さらに加熱していったようです。。。

そういう意味では、このヒートアップした状況が、今年のコロナ騒動で、少し変化があったのかもしれませんし、何よりも、深浅やバンガロール、イスラエルなど、他にも世界各地でイノベーションが過熱しているので、いまやシリコンバレーだけでなく、あらゆる地域で、国家ぐるみでスタートアップを育てているので、シリコンバレーだけが夢の場所ではなくなりつつあるようです。もっと言えば、生活コストの高すぎるシリコンバレーを敬遠して、いろんな意味での可能性を求めて世界中にその場所を求める起業家もいるわけです。

コロナでリモートやオンラインが当たり前になりましたが、スタートアップ自体も、地域は関係なくなっていくのかもしれません。言わば、シリコンバレーは、バーチャルな空間に移っていくでしょう。

本題に入る前に、書きすぎてしまったので、今日はここまで。この続きは、アクセラレータープログラム、パート2で!

シリコンバレーでアクセラレータープログラム/VC編Vol.2はこちら

他にも、いろいろな角度で経営やマーケティング、ブランディング、Webサイト制作について、お伝えしていますので、他の記事もぜひ、お読みください。ありがとうございました!

Inspirater 和田達哉
株式会社マイルストーンデザイン 代表